昼休みになった。
午前中の仕事が終わり、私はパソコンの画面を閉じるような気持ちで一度仕事から離れた。
時計を見る。
昼だ。
会社員として働いていると、昼休みは一日の中でも少し特別な時間になる。
朝から仕事をして、ようやく一息つける。
昼ご飯を食べる。
スマートフォンを見る。
少しぼんやりする。
午後の仕事に戻る。
毎日のことなのだが、この短い時間が意外と大切だったりする。
その日、同僚たちはランチに行くようだった。
何人かで話している。
「今日はどこ行く?」
「昨日の店は混んでたよね」
「近くの定食屋にする?」
そんな会話が聞こえた。
私は自分の席にいた。
誘われたのか。
はっきりとは覚えていない。
もしかすると、
「行きます?」
くらいの軽い声はかけられたかもしれない。
私は行かなかった。
一人で昼ご飯を食べることにした。
別に同僚が嫌いだったわけではない。
話したくないほど人間関係が悪かったわけでもない。
ただ、その日は一人で食べたかった。
それだけだった。
昼休みまで会社の人と一緒にいる必要はあるのか
私は昔から、一人で食事をすることにそれほど抵抗がない。
むしろ一人のほうが楽だと思うことがある。
食べたい店を自分で決められる。
注文する物も自由。
食べる速度も自由。
食べ終わったら帰れる。
誰かが食べ終わるのを待つ必要もない。
会社のランチは少し違う。
「何を食べる?」
まずここから始まる。
一人なら三秒で決められることでも、複数人になると時間がかかる。
ラーメンがいい人。
定食がいい人。
昨日ラーメンを食べた人。
高い店は嫌な人。
遠くまで歩きたくない人。
全員が納得する店を探す。
それだけで昼休みが少し減る。
もちろん、それもコミュニケーションなのだと思う。
同僚と話す。
仕事以外のことを知る。
職場の人間関係を作る。
ランチには、ただ食事をする以上の意味がある。
それは分かっている。
でも私は、ときどき思う。
昼休みまで会社の人と一緒にいなくてもいいのではないか。
朝から同じ職場にいる。
午後も同じ職場にいる。
仕事によっては一日中会話をする。
その間にある昼休みくらい、一人になってもいい。
その日は、そんな気分だった。
一人で店へ向かった
同僚たちがどこへ行ったのかは知らない。
私は一人で職場を出た。
外に出る。
会社の建物から少し離れる。
それだけで気持ちが変わる。
職場では仕事のことを考えている。
あの作業は終わったか。
午後は何をするか。
メールを返したか。
確認しなければならないことは何か。
しかし外へ出ると、少しだけ仕事から距離ができる。
私は一人で歩いた。
誰かと一緒なら話をする。
「午前中忙しかったですね」
「午後の作業どうします?」
「最近どうですか?」
そんな会話をしていたかもしれない。
でも一人だった。
何も話さなくていい。
私はただ歩いた。
店を探す。
混んでいる店を見る。
やめる。
別の店を見る。
一人だから、その場で決められる。
「あ、ここでいい」
それで終わりだ。
この自由さが私は好きなのかもしれない。
一人で食べると10分くらいで終わる
私は食事が早い。
昔からそうだ。
特に一人で食べると早い。
料理が来る。
食べる。
終わる。
10分くらいで食べ終わることもある。
誰かと一緒なら会話がある。
一口食べる。
話す。
相手の話を聞く。
また食べる。
食事の時間が長くなる。
一人なら会話がない。
食べることだけに集中する。
その日も私は早かった。
料理が運ばれてきた。
「いただきます」
心の中で言ったのか、小さな声で言ったのかは覚えていない。
そして食べた。
スマートフォンを見ながらだったかもしれない。
ニュース。
SNS。
自分のサイト。
何を見ていたのかも覚えていない。
ただ、誰とも話さずに食べた。
寂しいとは思わなかった。
むしろ少し落ち着いた。
朝から人の声を聞いていた。
自分も話していた。
仕事の画面を見続けていた。
その状態から一度離れる。
食べる。
何も話さない。
私にとって昼休みは、食事の時間というより、頭を静かにする時間なのかもしれない。
同僚と行かなかったことを少しだけ考えた
食事をしながら、少しだけ考えた。
「付き合いが悪いと思われるかな」
会社員をしていると、こういうことを考える。
飲み会に行かない。
ランチに行かない。
休憩中に一人でいる。
人によっては、
「あの人は付き合いが悪い」
と思うかもしれない。
私は完全に人間関係を無視できるほど強くない。
誰にどう思われてもいい。
そう言い切れる人間でもない。
だから少し気になる。
今日行かなかった。
明日も行かなかった。
毎日一人。
そうしたら職場で孤立するのだろうか。
そんなことを考える。
しかし逆に考える。
行きたくないのに毎日ランチについていく。
話したくないのに会話をする。
食べたくない物を多数決で食べる。
昼休みが終わる。
そして午後の仕事。
それを続けるほうが、自分には疲れる気がした。
私は一人でいることに比較的慣れている。
一人で外食できる。
一人でカフェにも入る。
一人で焼肉にも行く。
だから会社の昼休みに一人で食べることも、特別な行動ではない。
ただ、周囲に同僚がいると少し意味が変わる。
「一人しかいないから一人で食べる」
のではない。
「一緒に食べられる人がいるのに、一人を選ぶ」
その選択に、少しだけ罪悪感のようなものが生まれる。
一人で食べることは同僚を嫌うことではない
私はここを自分の中で分けて考えたい。
一人で昼ご飯を食べたい。
だからといって、同僚が嫌いなわけではない。
仕事では普通に話す。
必要な相談もする。
雑談をすることもある。
困っていれば手伝う。
自分が分からなければ聞く。
人間関係を拒否しているわけではない。
ただ昼休みは一人でいたい日がある。
人にはそれぞれ回復方法がある。
誰かと話すことで元気になる人。
一人になることで元気になる人。
私はどちらかと言えば、後者なのかもしれない。
もちろん毎日ではない。
気の合う人と食事をするのは楽しい。
面白い話を聞くこともある。
一人では入らない店へ行くこともある。
同僚とのランチには良い部分がある。
しかし「毎日一緒」が自分に合うかと言われると、少し違う。
今日は一人。
明日は誰かと。
それくらいの距離感がちょうどいい。
昼休みの会話にも少しだけ気を使う
同僚とのランチでは、完全に仕事を忘れられるわけではない。
目の前にいるのは会社の人だ。
友人とは少し違う。
何を話すか考える。
仕事の愚痴を言いすぎない。
誰かの悪口にならないようにする。
給料の話はどこまでしていいのか。
プライベートをどこまで話すのか。
恋愛。
家族。
年齢。
将来。
人によって話したくないこともある。
もちろん、そこまで深く考えずに話せる同僚もいる。
しかし私は少し考えてしまう。
この話は大丈夫か。
変に受け取られないか。
会社に戻って別の人に話されないか。
昼ご飯を食べながら、頭のどこかでブレーキをかける。
一人なら、そのブレーキがいらない。
そもそも話さないからだ。
食べる。
スマートフォンを見る。
考える。
それだけ。
人間関係のトラブルが起きる可能性はほぼゼロだ。
そう考えると、一人ランチは私にとって安全な休憩方法なのかもしれない。
食べ終わった後の時間が好きだった
その日も、私は早く食べ終わった。
まだ昼休みは残っている。
同僚とランチに行くと、店を出る頃には休憩時間がかなり減っていることがある。
移動。
店選び。
注文。
料理を待つ。
食べる。
会計。
会社へ戻る。
意外と時間がかかる。
一人なら早い。
私は食べ終わった後、少し歩いた。
特に目的はない。
午後の仕事まで時間がある。
街を見る。
人を見る。
スマートフォンを見る。
コンビニに寄ることもある。
ベンチがあれば座る。
この「何もしない時間」が好きだった。
誰かと一緒なら、
「そろそろ戻りますか」
という会話になる。
一人なら自分で決める。
あと5分歩く。
もう戻る。
コーヒーを買う。
全部自由だ。
昼休みは会社から与えられた短い自由時間だ。
私はその自由時間を、一人で使いたかったのだと思う。
午後、同僚とは普通に話した
会社へ戻った。
同僚たちも戻っていた。
特に何も起きなかった。
「なんで一緒に来なかったんですか」
と責められることもない。
「付き合い悪いですね」
と言われることもない。
午後になれば普通に仕事が始まった。
必要な会話をする。
質問する。
返事をする。
仕事を進める。
私は少し思った。
自分が気にしていただけなのかもしれない。
人は思っているほど、自分のランチを気にしていない。
誰が誰と食べた。
誰が一人だった。
毎日記録している人はいないだろう。
私は、
「一人で食べたら変に思われるかな」
と考えた。
しかし同僚は昼に何を食べるか考えていただけかもしれない。
人間は自分の行動を大きく考えすぎることがある。
一人で食べる。
それだけのことだった。
50代になって一人の時間が大切になった
若い頃の私は、もう少し人に合わせていた気がする。
誘われたら行く。
みんなが行くなら行く。
断る理由がないから行く。
そんな行動が多かった。
今は少し変わった。
行きたいなら行く。
今日は一人がいいなら一人で食べる。
もちろん仕事なので、何でも自分勝手にできるわけではない。
協力は必要だ。
人間関係も大切だ。
しかし昼休みまで無理をする必要はないと思うようになった。
50代になったからなのか。
一人暮らしが長いからなのか。
一人行動に慣れたからなのか。
理由は分からない。
ただ私は、一人の時間で回復する。
誰とも話さない。
何も説明しない。
自分の速度で歩く。
自分の速度で食べる。
それだけで少し疲れが取れる。
同僚とランチに行かなかった日の結論
その日、私は同僚とランチに行かなかった。
一人で店へ行った。
一人で注文した。
一人で食べた。
早く食べ終わった。
少し歩いた。
そして会社へ戻った。
特別なことは何もない。
でも私は少し楽だった。
同僚が嫌いなわけではない。
職場で孤立したいわけでもない。
ただ、昼休みくらい一人になりたい日がある。
それだけだ。
一人で食べることを「寂しい」と考える人もいる。
誰かと食べることを「楽しい」と考える人もいる。
どちらも間違いではない。
私の場合、その日の昼は一人がよかった。
会社員としての自分を少しだけ止める。
誰かの同僚でもない。
誰かの仕事仲間でもない。
ただ一人の人間として昼ご飯を食べる。
そんな時間が必要だった。
午後になれば、また仕事をする。
人と話す。
パソコンを見る。
考える。
だから昼の短い時間くらい、一人でもいい。
同僚とランチに行かなかった日。
私は少しだけ付き合いの悪さを気にした。
しかし、それ以上に一人で食べる時間が落ち着いた。
たぶん私は明日も、気分によって選ぶ。
誰かと食べたい日は一緒に行く。
一人になりたい日は一人で食べる。
毎日同じでなくていい。
昼ご飯くらい、自分の気持ちで決めてもいい。
一人で食べ終わった私は、そんなことを考えながら午後の仕事に戻った。


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