自宅の物置に作った“トレーニング室”は、僕にとってちょっとした秘密基地だ。
古いダンベル、使い込んだベンチ台、壁に立てかけたスクワットバー。
決して広くはないけれど、誰にも邪魔されない、大事な場所。
その日も仕事で疲れて、家に着く頃には体も頭も重かった。
リビングで休もうと思っても、テレビの音や生活音が耳に刺さる。
「今日は物置へ行こう」
自然と足がそっちへ向いた。
蛍光灯をつけると、薄暗い部屋がぼんやりと明るくなる。
冷たい空気と鉄の匂いが混ざって、なぜか落ち着く。
ベンチ台に腰を下ろし、しばらく天井を見つめた。
気持ちが少しずつ静まっていくのが分かる。
汗を流すほどの元気はないけれど、
「せめて栄養だけは入れよう」と思って、持ってきたプロテインを取り出す。
コンビニで買ったミルクプロテイン。
シェイカーを振る元気はない日、これが一番楽で助かる。
キャップを開けると、甘い香りがふわっと立ちのぼる。
その瞬間、少しだけ肩の力が抜けた。
一口飲むと、冷たさが喉を通っていく。
体が「ああ、これこれ」と言っているような感覚。
疲れているときのプロテインは、単なる栄養補給じゃない。
自分を回復させるための、ひとつの“儀式”みたいなものだ。
壁際のダンベルを眺めながら、ゆっくり飲む。
「今日は追い込まなくていい。飲むだけでいい」
そう思うと、背中がふっと軽くなる。
世の中では、
「毎日筋トレしろ」
「サボったら終わり」
みたいな声が多いけれど、実際はそんなにシンプルじゃない。
頑張れない日もある。
体が動かない日もある。
心が沈んで、何もしたくない夜もある。
でも、ここに来て、プロテインを一杯飲むだけで、
「完全に何もしなかった自分」にならずに済む。
それが、不思議と救いになる。
飲み終えたパックをベンチ横に置いて、深呼吸する。
蛍光灯の光が少し揺れて、影が壁に伸びた。
物置の静けさが、胸の奥まで染みこんでいく。
「まあ…これで十分か」
そう思えた瞬間、気持ちがすっと軽くなった。
頑張れない夜は、頑張らなくていい。
その代わり、プロテイン一杯でもいいから、自分を労わればいい。
そうやって少しずつ積み重ねていくことで、人は前に進める。
自宅の物置のトレーニング室で飲んだ一本のプロテイン。
それは、筋肉だけじゃなく、心にも効いた“回復ドリンク”だった。


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