社会人になって初めての冬。
安月給でもなんとか暮らせるワンルームの部屋。
玄関のドアを閉めた瞬間、会社で張り詰めていた空気がようやく消えていく。
ここだけが、唯一「自分の世界」になれる場所だ。
冷蔵庫を開けて、
コンビニで買ったチキンとパックサラダを取り出す。
そして、今日も例の相棒──ゼロカロリーコーラ。
なぜかこれだけは欠かせない。
甘くないのに、飲むとホッとする。
自分の中のスイッチみたいなものだ。
机の上には、無理して買ったMacが置いてある。
給料に見合っていないのは分かっている。
でも、これだけは妥協したくなかった。
社会人になって、毎日誰かに指示され、
自由に選べるものが少なくなった分、
Macは「自分が決めたもの」の象徴みたいに思えている。
電子音ひとつない部屋で、
惣菜のビニールを破る音だけが響く。
テレビはつけない。
YouTubeの作業BGMを小さく流しながら、黙々と食べ始める。
食べているのはただのコンビニ飯なのに、
この時間だけは妙に落ち着く。
ふと今日の仕事を思い出す。
意味の分からないクレーム対応に追われ、
上司の機嫌を伺いながら仕事を進め、
休憩時間も気を抜けなかった。
「俺、本当にこのままでいいのかな」
そんな言葉がふと浮かんでは消えていく。
ゼロコーラを一口飲む。
炭酸が喉の奥で弾けて、少しだけ現実が遠くなる。
Macのディスプレイは電源が消えているのに、
そこに映る“未来の自分”をどうしても考えてしまう。
「いつかここで、会社に頼らない何かを作れないだろうか。」
「この部屋から、別の道を開けないだろうか。」
そんな思いが、静かな夜の中でじわじわと広がってくる。
食べ終わった容器をまとめながら、
今日も一日よくやったな、と自分に小さく声をかける。
誰も褒めてくれないから、
自分だけでも自分を肯定しておきたい。
そして、机の前に座ってMacの電源を入れる。
ゼロコーラの冷たさがまだ手に残っている。
外は静かで、部屋も静かで、
“今なら何か始められそうだ”という気配が少しだけある。
安月給でも、
コンビニ飯でも、
ひとりでも、
この夜は確かに、自分の人生の一部だ。
ここから何かを変えることだって、
本当はできるのかもしれない。


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