七面鳥を飼育して食べる生活|自分で育てた命をいただくロースト体験

Solo Home Meals(家でひとりごはん)

七面鳥を飼い始めたのは、コロナが始まって世の中がざわついていた頃だ。外食も減り、自宅で料理をする時間が増えた。スーパーには何でも揃っているけれど、「育てる」「食べる」のサイクルを自分の手で完結させてみたい。そんな思いがきっかけだった。

最初に迎えた若鳥は3羽。朝はコケコッコーではなく、七面鳥特有の低い鳴き声で一日が始まる。飼育小屋の扉を開けると、彼らは首を伸ばしてこちらを見上げてくる。つぶらな瞳がかわいくて、正直、情が移る。エサは配合飼料に雑穀、たまに野菜の切れ端も混ぜてやる。ゆっくりと育っていく姿は、見ているだけで時間が穏やかに進んでいくようだった。

数ヶ月後、1羽が十分な大きさになった頃。自分で命をいただく決断をする日は、静かで、少し緊張を伴う。包丁を研ぎ、水を張ったボウルを用意し、深呼吸をひとつ。さばく作業は淡々としているのに、胸の奥に重さがある。けれど、その瞬間に「食べる」という行動の本質が見える気がした。スーパーで買う肉では気づけなかった重みだ。

下処理を終えると、台所に七面鳥の香りがほんのり漂いはじめる。今日はシンプルにローストにしてみることにした。塩、胡椒、ローズマリー、少しのオリーブオイル。外はカリッと、中はしっとりジューシーになるように。オーブンに入れて90分、焼けるまでの時間が妙に楽しみだった。七面鳥を飼う前は、ただ待つ時間が退屈だったのに、今は「育てた命が料理になる時間」と思うと特別だ。

焼き上がった七面鳥は、表面が黄金色に輝き、脂がじわりと滲む。ナイフを入れると、柔らかな繊維がほぐれ、肉汁が皿に溶け出す。ひと口目は驚くほど優しい味だった。鶏肉より力強いのに、クセがなく、後味はすっと消える。自分で育てた分、噛むたびに想いが乗る。スーパーマーケットの肉では得られない実感だった。

付け合わせは畑で採れたジャガイモを蒸してバターをひとさじ。七面鳥の旨みのあとにくる素朴な甘さが、妙に沁みる。ひとりで食べているはずなのに、食卓が心豊かに感じた。誰かと賑やかに食べるクリスマスの七面鳥もいい。だけど、静かな午後、ひとりで自分の手で育てた肉を噛みしめる時間には、別の価値があると思う。

もちろん、毎回七面鳥をさばけるほど強くない日もある。情が湧いた個体は自然と寿命まで見守ることもある。でも、たまにいただくその1羽が、料理の意味を思い出させてくれる。命を食べるという行為がどれほど尊いか。

市販の肉や外食も好き。でも、ときどき自分の手で育てた七面鳥のローストを味わうと、じんわりと背筋が伸びる気がする。「今日の食事は、生きている証だ」と。

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