彼女不在のアパートで食べたおでんが、なぜかやけに美味しかった夜

Solo Grab & Eat(買って食べる)

本庄駅の近くにある、彼女の小さなアパート。
その日は仕事で遅くなるらしく、「鍵、開けておくから先に入ってていいよ」とLINEが来た。
気を遣わなくていいように言ってくれた言葉がうれしくて、そのまま車を走らせた。

夜の本庄の空気は思ったより冷たくて、コンビニの明かりが妙に温かく見えた。
アパートに入る前、ふとおでんの匂いに惹かれて、ついカップに大根とちくわ、たまご、こんにゃくを入れてもらった。こんな小さな買い物なのに、妙に心が軽くなった気がした。

彼女のアパートのドアを開けると、いつもの柔らかい匂いがした。
洗濯物の洗剤の香りと、彼女がよくつけているヘアミルクの匂いが混ざったような、落ち着く匂い。
電気をつけると、部屋はきれいに片付いていて、テーブルの上には飲みかけのペットボトルと、読みかけの雑誌がそのまま置かれていた。

「ただいま」と小さく呟いてしまったけれど、もちろん返事はない。
それでも、誰もいないのに“ここには彼女の生活があるんだな”と分かる空気があって、それだけで少しあたたかかった。

カバンを置き、コンビニ袋をテーブルの上に置いた。
ふたを開けると、さっき買ったおでんから湯気がふわっと立ち上がった。
夜の冷えた体に、その湯気が染み込んでいくようで、思わず深いため息が出た。

テレビをつけるのはやめた。
この静けさを壊したくなかったからだ。

大根をひと口かじると、じゅわっと出汁が広がって、思っていた以上に美味しかった。
“ただのコンビニおでんなのに”と笑ってしまうほど、心に染みた。

ひとりで食べているのに、寂しさはなかった。なぜだろう?
むしろ、彼女の部屋で、彼女の温度が残った空間で食べているからか、どこか安心していた。

キッチンを見ると、彼女が朝使ったらしいマグカップがそのまま置かれていた。
料理が得意じゃないといつも言っているけど、昨日の洗い物はちゃんと片付けてある。
そういう小さな部分に、彼女の生活が滲み出ている気がして、なんだか胸が温かくなった。

たまごに箸を入れると、黄身がほろっと崩れた。
無言で食べているだけなのに、心が落ち着いていく。
“そういえば、彼女とこうやってのんびり食べたこと、まだないな” とふと思う。
いつも外で食べることが多くて、ふたりで何かを買って部屋で簡単に食べるだけでも、案外楽しいのかもしれない。

「ごめんね、今終わった!あと30分くらいで帰る!」
そうLINEが来たのは、おでんを食べ終わった頃だった。ほっとした。
その通知だけで、部屋の空気が少し明るくなった気がした。

片付けをして、カップを袋にまとめてゴミ箱に置く。
ソファに少し横になると、疲れがゆっくり抜けていくようだった。
静かな部屋で、彼女の帰りを待つ時間。
何もしなくても幸せだと思える瞬間だった。

玄関の鍵が「ガチャッ」と回る音が聞こえた。
彼女が「ごめんね!遅くなっちゃった」と笑いながら入ってきた時、
あぁ、この部屋にあなたが戻ってくるまでの時間も含めて、全部好きだなと思った。

深夜の静かな部屋でひとり食べたおでんは、理由もなく、ただやけに美味しかった。
それはきっと、彼女と過ごす“当たり前の生活”が少しずつ始まっているからなのかもしれない。

コメント