ステーキ宮 前橋下小出店に、はじめて一人で入った日のことを今でもよく覚えている。きっかけは些細で、仕事帰りにやけくそ気味で肉が食べたくなっただけだ。ストレスの出口がどこにも見つからず、「今日はもう誰にも気を遣わずに食べたい」と思い、気づいたら車を走らせていた。外観の明かりがぽっと浮かぶ夜、道路は冷えていて冬の匂いがした。
入店して驚いた。客席を見回すと、私ひとりだけだった。ファミレス=家族連れや友達グループのイメージが強く、ソロで来る勇気が必要だったのは正直なところ。でも店員さんは丁寧で、「お好きな席へどうぞ」と自然に案内してくれた。その一言で肩の力がすっと抜けた。
メニューをめくりながら、一人でステーキを食べる贅沢を噛み締めた。注文したのは宮ロースステーキ。ジュッと鉄板の上で音を立てる瞬間、気持ちが一気に晴れていく。肉にナイフを入れると柔らかく、宮のタレを絡めて口へ運ぶと、疲れがほどけていくような幸福感が押し寄せた。あの濃厚なタレと白米の組み合わせは反則級。
店内は静かで、他人の会話もない。サラダバーの気配だけが遠くでカチャカチャ聞こえた。ひとりだと食事の音や香りに集中でき、味わい方がまるくなる。スマホをいじらず、ただ目の前のステーキと向き合う時間。誰とも話さず、それでいて孤独ではなかった。たぶん「自分を労わる時間」が欲しかったのだと思う。
食事を終え、店を出たときの夜風は少し優しかった。強がりでも逃げでもいい。ひとり飯はこういう時に人を救うことがある。ステーキ宮 前橋下小出店で過ごしたあの夜は、私の中で静かな成功体験になった。「ひとりで行っていいんだ」「むしろ自由でいい」。そう思えたことが、自分の生き方を少しだけ楽にした。
今でも時々思い出す。あの店で食べた熱い鉄板の音と、タレの香りと、空いた店内の静けさ。誰もいない客席で食べるステーキは、なぜあんなにも心に沁みたのだろう。もし今、気持ちが沈みがちな人がいたら、ひとりでステーキを食べに行くのも悪くないですよ。意外と、それが明日を少し動かしてくれるかもしれません。


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