名古屋でエンジニアとして働いていた頃、プロジェクトは常に複数人で進めていた。
朝はスタンドアップミーティング、午後はレビュー、夕方には報告会。
コードを書く時間よりも、意外とコミュニケーションの時間の方が多かったりする。
それでも昼休憩だけは、なぜかいつもひとりだった。
別に嫌われていたわけじゃないし、誰かを避けていたわけでもない。
みんな仲は良い。ただ、昼の時間帯になると自然と各々が自由に散っていく。
Aさんは牛丼が早いから吉野家派、
Bさんは外に出るのが面倒でコンビニ派、
Cさんはジムに行って軽食だけ、
そして俺はというと、気分で店を選ぶソロ派だった。
名古屋駅周辺はランチの宝庫だ。
味噌カツ、きしめん、台湾まぜそば、喫茶店モーニングの名残を感じるトーストランチ、
どれを選ぶかだけで楽しい。
その日の気分で店を決める自由が、ひとりだからこそ許された。
店選びに付き合う必要も、時間調整する必要もない。
「今日はまぜそばの気分」「いや、うどんが食べたい」
思いついた瞬間に足が動く。
ある日は地下街のカウンターで味噌カツ定食を食べ、
別の日はコンビニでサンドイッチを買ってオフィスの片隅で食べた。
ひとりで噛みしめたカツの衣は、外食らしいワクワクを運んでくれる。
スマホを見ながら、Slackの通知を切り、
湯気とソースの香りの中で、頭の中をオフにしていく。
昼の30分が、仕事の雑音ではなく、自分だけの時間に変わる。
チーム開発では、意見を合わせることも多い。
レビューで指摘されたり、仕様変更で振り回されたり。
それが嫌いなわけじゃないけど、ずっと誰かと接していると心が擦れる。
だからこそ、ソロ飯が心の保全になっていた。
会社で「お昼どうします?」と聞かれないのは、少し寂しい日もあった。
誰かと笑い合うランチもないわけじゃない。
けれど、ひとりで食べる時間があることで、
午後の自分が落ち着いていられた。
ソロ飯は孤独ではなく、自分を整えるメンテナンスの時間だったのだ。
吃驚するほど些細なことだが、
味噌カツの一切れを噛んだ瞬間、「ああ、生きてる」と思えた。
エラーに刺された心も、バグに悩んだ眉間も、
ひとりランチの30分でリセットできる。
食後にコーヒーを買い、ビル風が吹くデッキを歩き、
またオフィスへ戻る。
キーボードの音が再び心地よく響き始める。
名古屋でのエンジニア生活。
チームで働き、昼はひとりで食べ、また午後に合流するリズム。
そのバランスが今思うとちょうど良かった。
ひとり飯は逃げじゃない。
自分のペースで呼吸するためのスペースだ。
そして時々、誰かと食べるランチがより美味しく感じるための対比でもある。
あの頃のソロランチは、確かにひとりだったけど、
決して孤独ではなかった。
あれは自分を好きでいるための、小さな休憩だったのだ。


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