秋になると、外で食べるご飯がいつもより美味しく感じる。この日、少しだけ遠回りして公園を歩いていると、色づいたイチョウの木が風に揺れていた。黄色い葉がひらひらと落ちて、地面には自然が作る金色のカーペット。思わず足が止まってしまうほどきれいで、そのまま近くのベンチに腰をおろした。
バッグの中には、さっきスーパーで買った幕の内弁当。特別なものではないけれど、こういう外で食べる弁当ほど贅沢に感じるものはない。ベンチに座って、軽く深呼吸してから蓋を開ける。冷たい秋の空気と、弁当のほのかな香りが混ざって、なんだか懐かしい気持ちになる。
箸を持って最初に口に運んだのは、白身魚のフライ。サクッとした衣と、しっとりとした身の食感が心地いい。紅葉を眺めながら食べるだけで、普段の弁当がワンランク上の味になるから不思議だ。次に卵焼きをひと口。ほんのり甘くて、どこか家庭的な温かさを感じる。この組み合わせこそ幕の内弁当の良さだと思う。
ふと見上げると、イチョウの葉がまた風にのって落ちてきた。ひとりで食べているのに、さみしさはなく、むしろ心が満たされていく感覚がある。人混みや騒がしさとは無縁の、静かで穏やかな空間。耳をすませば、風の音と鳥の声だけが聞こえてくる。こんなに落ち着く昼ごはんは久しぶりかもしれない。
ご飯を食べ進めるたびに、秋の空気が胸に沁みてくる。ほのかな冷たさと柔らかい陽の光が、いま目の前にある時間の大切さをそっと教えてくれるようだ。普段は早歩きで過ぎていく景色も、こうやって座ってみると、季節の移り変わりがゆっくり感じられる。
唐揚げにかじりつきながら、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえた。公園で遊ぶ声は、どんな時でも暖かい気持ちにさせてくれる。ベンチの上に舞い落ちるイチョウの葉を払って、再び弁当に向き合う。ありふれたおかずの一つひとつに、なぜか特別感がある。
食べ終わる頃には、心がすっと軽くなっていた。忙しい毎日の中で、こういう静かな時間は本当に大切だと思う。高級な料理じゃなくても、景色と空気が合わさればそれだけで最高のご馳走になる。ひとりで過ごす秋の昼は、想像以上に深く、そして優しかった。
弁当を片付けて立ち上がると、ひんやりとした空気がまた肌に触れた。イチョウ並木の間を歩きながら、「また来よう」と自然に思えた。あの日の弁当が沁みた理由は、味だけじゃない。季節、静けさ、風、落ち葉──その全部が混ざり合って、ひとり時間を豊かにしてくれたからだ。
また秋が来たら、同じ場所で、同じように幕の内弁当を食べたい。
そんな気持ちにさせてくれる、穏やかな昼だった。


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