昼休みの終わり、財布の記帳をしに銀行へ向かった。
平日の午後、客はまばらで、静けさが妙に重たく感じる空間。
番号札を取ってソファに腰を下ろすと、背もたれがふわっと沈み込み、思った以上に居心地が良かった。
実はその直前、コンビニで買った小さなパンとおにぎりを手にしていた。
職場へ戻る前にサッと食べようと思っていたけれど、外は風が強くて落ち着かないし、ベンチは全部濡れていた。
「銀行なら、ちょうどいいんじゃないか」
そんな軽い気持ちで、バッグに食べ物を忍ばせたまま中へ入った。
静まり返ったロビー。
ATMの電子音、ペンを走らせる音、遠くの窓口から聞こえる控えめな会話。
すべてが“食べるにはアウト”な空気なのに、なぜか逆に落ち着く。
あの独特の静けさが、かえって心を整えてくれる。
番号を呼ばれるまで少し時間がかかりそうだったので、
周囲をそっと確認して、バッグの中からパンをひとつ取り出した。
音が出ないように、袋を最小限だけ開く。
少し背徳感があるこの瞬間が、なぜか楽しい。
ひと口食べると、ふわっと甘みが広がった。
銀行という場所で食べるからか、普段より何倍も味が濃く感じる。
誰にも気づかれないように、ゆっくり噛む。
視線は前の壁のポスターに向けたまま、心だけは静かに食事モードへ入っていった。
誰にも邪魔されず、雑音もなく、
ただ落ち着いて食べられる空間なんて、意外と街には少ない。
ふだんは当たり前のように感じている銀行も、
こうして座ってみると「静かな避難場所」みたいだった。
隣の席に誰も来なかったのも幸運だった。
パンを食べ終えると、次は小さなおにぎりを開けた。
ここまできたらもう開き直りに近いけれど、
とにかく急いで食べたかったわけじゃない。
“静かにひとりで落ち着きたい” その気持ちのほうが強かった。
ほんの数分だったけれど、心の中はゆっくり整っていった。
職場で食べる慌ただしい昼より、ずっと満たされていた。
「ひとりで静かに食べる時間って、大事なんだな」
そんなことをぼんやり考える。
やがて番号が呼ばれ、
食べ終えた手をそっと拭き、何事もなかった顔で立ち上がった。
銀行を出るとき、なぜか少しスッキリしていた。
背徳感なんて気にするほどの罪じゃない。
むしろ、あの短い時間が心の回復になっていた。
誰にも知られないひとり飯。
こっそり過ごしたその静かな数分間が、
妙に記憶に残る一日になった。


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