初デートの緊張って、独特だ。
その日も仕事終わりに急いで電車に乗り、待ち合わせの駅に着く頃には胸が少しドキドキしていた。
相手の女性とはアプリでやり取りをしていて、返信の感じも良く、実際に会うのを楽しみにしていた。
駅で会った時の第一印象は悪くなかった。
「写真より可愛いじゃん」なんて思いながら、軽く挨拶して近くの居酒屋へ向かった。
席につき、メニューを開き、最初の注文をするタイミング。
「とりあえず、唐揚げと…飲み物どうする?」と聞いた時、
彼女が「ちょっと手洗い行ってきますね」と席を立った。
——ここまでは普通。
誰だってトイレには行く。
問題は、その後だった。
5分…10分…15分。
戻ってこない。
店員さんが「お飲み物どうされますか?」と聞きに来て、
「今、もう一人来るので…」と苦しく返す俺。
その間、LINEは未読のまま。
嫌な予感はしていたけれど、希望がゼロになるまで信じたかった。
でも、20分を過ぎたところで確信した。
これ、完全にとんずらだわ。
背中がスッと冷える感覚でした。
初デートでトイレに消える、都市伝説みたいな展開が自分に起きるとは思わなかった。
悲しいとか怒りとかじゃなくて、
まずは「いや、あるんだ、こういうこと…」という驚きのほうが大きかった。
結局、店員さんに事情を説明するのもやはり気まずくて、
注文していた唐揚げとウーロン茶を一人で受け取った。
席に戻ると、そこだけ妙に広く感じる。
さっきまで向かいにいた“はず”のスペースが、急に空洞になった。
でも、不思議と、その唐揚げがやけに美味しかった。
熱々で、衣はサクッとしていて、中はジューシー。
「俺、結局ひとり飯なんだよな…」と苦笑しながら食べていたら、
だんだん気持ちが落ち着いてきた。
誰かと食べる料理も楽しい。
でも、“ひとりで食べるごはん”は嘘をつかない。
相手が消えても、唐揚げは裏切らない。
ひとり飯は、いつもそこにある。
スマホには何の連絡も来なかった。
彼女のプロフィールはその夜のうちに消えていた。
きっと別の相手と会ってピンと来なかったのか、
あるいは気まずくなって逃げたのか。
理由はどうでもよかった。
ただ、帰り道に思ったのはひとつだけ。
「結局、ソロ飯が最強なんじゃね?」
好きなものを、好きなタイミングで、誰にも気を使わず食べられる。
デートが失敗しても、ひとり飯は安定してうまい。
あの唐揚げが、その夜の救いだった。
たぶん、また誰かと会うだろうし、
またデートすることもある。
けれど、“ひとりのごはんが好きだ”という自分の核は、しばらく揺らぎそうにない。
初デートでとんずらされた夜。
笑えるようになるのに少し時間はかかったけれど、
今ではSoloEatのネタとして最高の思い出になっている。
そして何より学んだ。
唐揚げは、人より信頼できる。


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